ワイヤ放電加工 (WEDM-Wire Electric Discharge Machinning-)
ワイヤーカットとはどんなものか、その一端をご説明します。
加工原理
ワイヤーカットは、放電加工の特殊な一形態と言えます。
放電加工とは、電極と材料の間に電圧をかけて放電を起こし、発生する熱によって材料を熔融することによって加工する、というものです。
このときの温度は7000度前後にも達し、たとえば鉄の融点は1535度、沸点は2750度と言われていますから、放電中心部の材料は一瞬にして蒸発し、その周囲の部分も熔けてしまうことになります。
放電によって蒸発もしくは熔融する範囲をうまくコントロールできれば、切削加工では歯のたたない硬い材料でも加工可能だというのが放電加工の発想です。
通常の放電加工では、加工のたびに形状に合わせた専用の電極を作成し、それを使って放電を行います。一方ワイヤーカットの場合、電極としてきわめて細い(直径0.05mm~0.3mm)主に黄銅製のワイヤーを使用しています。
NC制御を使い、平面上をワイヤーに自由な軌跡を描かせます。これによって専用電極の準備なしに複雑な形状の加工を可能にしたのです。
加工形態
具体的な形態としては、まず、ちょうど糸鋸のように、縦方向に張られたワイヤーが上から下へ走っています。材料をテーブル上に固定し、加工形状通りにXY方向(平面上)にワイヤーを移動することによって加工します。
(ワイヤーの位置は固定で、テーブルの方を移動する場合もあります。)
糸鋸との大きな違いの一つは、ワイヤーが縦方向に走るとは言っても、直接「切って」いるわけではないということ。加工はあくまで放電によって行われるため、材料とワイヤーが実際に接触することはありません。(非接触加工)
もう一つの大きな違いは、糸鋸のようにループになったワイヤーを回しているのではなく、ワイヤーは一回の加工で使い捨てだということです。
長いワイヤーを巻いたボビンを加工機にセットし、ワイヤーはそこから引き出され、加工後は回収箱にためられます。回収されたワイヤーは黄銅としてリサイクルに回されます。
精度
放電は多くのパラメータによって精密に制御され、寸法的にきわめて安定した加工を可能にしています。
加工によって電極も消耗しますが、ワイヤーカットの場合は常に新しい電極が送り出される形になるため、非常に高精度な加工が可能になっています。
ワーク材質などの条件にもよりますが、標準的な加工では、セカンドカット法の活用により、最高1000分の数ミリ台の精度が実現可能です。
難加工材
切削加工と異なり、刃物を使わず熱によって加工するため、原理的に材料の硬度は関係ありません。焼入材・超硬合金・チタン・グラファイト、さらには焼結ダイヤにいたるまで、どんな難加工材でも、通電さえすれば加工可能です。
変形
発生する熱は瞬間的なものであり(一回の放電時間は、数万~数十万分の一秒)、その上、常に水で冷却し続けているため、素材の熱変形などは非常に微小なもので、通常は全く無視できるレベルです。
また、非接触加工のため、加工時にワークに対してほとんど力が加わらず、非常に脆弱な精密部品や、薄物なども加工可能です。
経済効率
材料のうち加工によって失われる部分は、ワイヤーの通り道である0.1から0.4ミリ程度の溝だけです。
したがって限られた予算内で材料をムダなく使うことができます。金型製作におけるパンチ&ダイ両取などはその代表的なものです。
非常に高価な素材の場合などにも、ワイヤーカットの活用によって材料の節約につながる場合があります。
加工費自体をみても、たとえば取りしろの非常に多い加工の場合などに、他の加工法以上に経済的であることもあります。
これは、ワイヤーの加工時間が主に加工周長と板厚で決まり、取りしろとは無関係なためです。
加工手順
ワイヤーカットの加工手順を模式的に説明します。
テーブル上にワークを乗せ、固定します。
通常ワークの二辺(L字形)を乗せます。
上アームと下アームで加工物をはさむ形で加工します。
切り落としたらスクラップを取り除きます。
通常は加工物の内部応力による変形を避けるため、ドリル穴からスタートします。
スタート穴周辺を避けるため、助走距離(アプローチ)を取ります。
一筆書きの要領で、製品 (この場合長方形)を切り出します。
切り落とし時に製品が落下しないように固定してからアームを逃がし、製品を抜き取ります。
ここまでの図では、わかりやすくするために、上側アームを上げた形で描いていますが、実際には上下ノズル共にワークに密着した状態で加工します。